準強制性交(旧準強姦)とは?パワハラによる性交為は該当する?

公開日:2020.03.28  その他

この記事のポイント

✔︎準強制性交等罪は、被害者が抵抗することが身体的・心理的に不可能あるいは著しく困難であったか否か、加害者に故意があるか否か、がポイント

✔︎準強制性交等による不法行為の慰謝料は高額となる傾向はあるが、最終的な金額は個別具体的事情によって異なる


この記事をご覧の方の中にもニュースなどで準強制性交等罪、準強姦罪などの名前を聞いたことがある方もおられると思います。職場の上司からパワハラにより性行為を強要されたという場合、上司を準強制性交等罪に問うことはできるのでしょうか?

この記事では、準強制性交等罪について解説した上で、準強制性交等による慰謝料についても解説します。

準強制性交等罪

それでは、準強制性交等罪について解説してまいります。

 

準強制性交等罪とは

平成29年7月13日に刑法の性犯罪に関する規定などを改正した改正刑法が施行され、かつての準強姦罪は準強制性交等罪と名称が変更されました。名称が変わっただけではありません。準強姦罪は「3年以上の有期懲役」でしたが、準強制性交等罪は「5年以上の有期懲役」と罰則が強化されました。また、準強姦罪は検察官の起訴に告訴を必要とする親告罪でしたが、準強制性交等罪は告訴が不要の非親告罪となりました。準強制性交等罪は刑法178条1項に規定されています。

刑法178条1項 人の心身喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をしたものは、前条の例による。

これからすると、相手方を準強制性交等罪に問うには

①心神喪失or抗拒不能に乗じ+性交等

②心神喪失or抗拒不能にさせて+性交等

が必要ということになり、さらに、加害者の

③故意

が認められてはじめて犯罪成立ということになります。なお、「乗じ」とは心神喪失、抗拒不能の状態を利用することをいいます。「させて」とは心神喪失、抗拒不能の状態を作りだすことをいいます。

 

心神喪失、抗拒不能とは

心神喪失とは、精神の障害によって正常な判断能力を失っている状態をいい、熟睡、泥酔状態などがこれに当たります。

抗拒不能とは、心神喪失以外の理由によって身体的・心理的に抵抗が不可能あるいは著しく困難な状態をいいます。

この抗拒不能に関する解釈ついては注目すべき裁判例があります。平成31年3月26日、名古屋地方裁判所岡崎支部の判決です。裁判所は、実の娘に対する準強制性交等罪に問われた男性に対して無罪判決を言い渡しました。その理由として、実娘が抗拒不能であることに合理的疑いが残る、としたのです。ただ、裁判所は抗拒不能を「被害者が性交を承諾・容認する以外の行為を期待することが著しく困難な心理状態にあること」と解釈しています。この点については、従来裁判所がとってきた抗拒不能の解釈よりも厳しく、立証のハードルが高いとの指摘もなされています。なお、判決を受けて検察側は控訴しており、審理の舞台は名古屋高等裁判所へと移っています。令和2年3月12日に判決予定で、名古屋高裁が抗拒不能に関してどう解釈するか注目です。

 

性交等とは

性交等には性交(性交為)のほか、肛門性交、口腔性交も含まれます(以下の刑法177条もご参照ください)。

 

故意とは

加害者が、被害者が性交等に同意しておらず、かつ心神喪失、抗拒不能の状態にあることを認識していること、をいいます。加害者が、被害者が同意していると誤信しており、抗拒不能の状態にあることを認識していない状況が認められる場合は準強制性交等罪の故意がないとして無罪となる可能性もあります(同様の趣旨の最高裁判例(平成28年1月14日)があります)。

 

準強制性交等罪が成立するとされた判例、裁判例

では、どのようなケースで準強制性交等罪の成立が認められやすいのか、参考となる判例、裁判例をみていきましょう。

・医師と患者【名古屋地裁昭和55年7月28日】

医師が患者に「性交しなければ病気を治療できないなど」と嘘を言って、騙された患者と性交した準強姦のケース

・経営者と学生【東京高裁昭和56年1月27日】

プロダクションの経営者が、女子学生らに「モデル志願者になるためには必要」などと言って全裸にさせて写真撮影するなどした準強制わいせつのケース

・教師と生徒【東京高裁平成15年9月29日】

教師が女子高生に英語の個人レッスンをリラックスして受けさせるためであるとして下着を脱がせてわいせつ行為に及んだ準強制わいせつのケース

 

パワハラの場合は?

パワハラの場合も、これまでご紹介してきた準強制性交等罪の要件を満たせば加害者に準強制性交等罪の成立を認めることができます。

中でも

・被害者が抵抗することが不可能、あるいは著しく困難な状態であったか

・加害者に故意が認められるか

が最大の争点となりそうです。

 

強制性交等罪との違い

最後に強制性交等罪との違いをご説明します。強制性交等罪は刑法177条に規定されています。

刑法177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

準強制性交等罪との決定的な違いは、性交等の手段です。つまり、準強制性交等罪は被害者の心身喪失、抗拒不能状態をいわば手段としていたのに対して、強制性交等罪は暴行、脅迫を手段としています。なお、13歳未満に対する性交等については暴行、脅迫がなくとも強制性交等罪が成立する可能性があります。

 

準強制性交等と慰謝料

準強制性交等罪が成立する場合、あるいは民法上の不法行為に該当する場合は加害者に慰謝料(精神的損害を金銭に換算した額)を請求することができます(民法709条、710条)。なお、刑事事件で加害者が無罪となった場合でも、慰謝料を獲得できる可能性はありますから諦める必要はありません。

 

慰謝料の相場

準強制性交等は性犯罪の中でも特に悪質性の高い行為です。また、被害者の方が被った精神的ダメージ(精神的損害)は回復しがたいほど甚大なものといえます。したがって、一般的に、準強制性交等による慰謝料は他の性犯罪に比べて高くなる傾向にあります。感覚的には「数万円、数十万円単位は低い」と考えます。そこで、まずは「数百万円単位」をベースに交渉を図ることが基本です。

ただ、最終的に慰謝料は、加害者・被害者との関係、加害者の社会的地位、年収・収入・資産状況、性交等の態様(計画性、違法性、悪質性)、被害者の肉体的・精神的被害の程度、加害者の謝罪状況・反省の程度などを総合的に勘案し、示談交渉や裁判で確定させていきます。

 

慰謝料請求の方法

慰謝料を請求するには以下の方法があります。

①口頭による方法(電話や面談によって請求する方法)

②書面による方法(内容証明郵便による方法)

しかし、①による方法が可能といっても、そもそも被害後、被害者の方が加害者と直接接触したくはないでしょう。また、仮に接触したとしても、口頭では相手にどんな行為を不法行為とするのか明確に伝えることができず、感情的になり、特に金額面で折り合いがつかずに示談交渉が頓挫する可能性が高いです。

そこで、慰謝料の請求は②による方法が一般的です。まずは、加害者に内容証明郵便による請求から示談交渉を始め、加害者が示談交渉に応じない、応じたが示談交渉でも話がまとまらない、という場合に訴訟(裁判)に移行します。

おわりに

職場の上司を準強制性交等に問うたり、慰謝料を請求するためには、様々なハードル(要件)をクリアしなければなりません。また、ハードルをクリアするためには証拠も必要です。証拠には、被害に遭ったというあなたの「話」も含まれますが、それだけでは信用できないと反論されてしまう可能性もあります。いかにして職場の上司を準強制性交等に問うたり、慰謝料を請求できるのかはまずは、弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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タグ : レイプ パワハラ
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